第1話 誕生

1173年(承安三年)、京都 日野の地に、親鸞聖人は誕生されます。
父は藤原家の流れをくむ日野有範(ひの ありのり)。公家の下級官吏でした。出家隠棲したと言われています。母は、源氏の流れをくむ吉光女(きっこうにょ)と伝えられていますが、確かなことは分かっていません。母とは幼いときに死別しました。

聖人誕生の頃、源平の争いによる戦乱と、大火や飢饉で、京の都には死者が溢れていました。まさに明日とも知れないいのちを、誰もが生きている時代でした。
聖人と4人の弟たちは、伯父の日野範綱(ひの のりつな)の家に預けられ、幼少期を過ごします。また、もう一人の伯父の日野宗業(ひの むねなり)に、漢籍(漢文で書かれた中国書籍)や今様(平安期に流行した歌の形式)を習いました。
聖人は、漢籍や今様を学ぶため、範綱の家と宗業の家とを行き来します。その時間は、都の様子を肌で感じる時間でもありました。
都に溢れる死者とその臭い。死者の身に付けているものを奪って いのちをつなぐ者。荒れ果てた世の中において、なんとか希望を見出して生き抜こうとする者。それらとの出会いは、幼く、好奇心旺盛な聖人にとって、宗業のもとでの修学以上に、多くの刺激を得るものでした。